祖父の元気を取り戻してくれた車椅子
事故で体が不自由になってしまった祖父
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わたしの祖父が亡くなって6年になります。
祖父はわたしを幼いころからかわいがってくれ、わたしも祖父のことが大好きでした。
祖父母の家は他県にあったため正月くらいしか会うことはなかったのですが、
それでも毎年年末になると、家族で会いに行けることを楽しみにしていました。
そんな祖父でしたが、わたしが小学生頃はまだまだ元気で
ゴルフをしたりボーリングに行ったり、また友人と釣りやカラオケに行ったりと、
かなり多趣味でアクティブでした。しかしわたしが中学に入った頃、
おそらくあれは祖父が70歳になった頃だったのですが、
バイクに乗っている最中に事故に遭い転倒してしまい、
それ以来体が不自由になってしまったのでした。
入院し、右大腿部の大きな手術をしました。手術は成功し、
無事退院できたのですが、それ以来祖父はすっかり元気をなくしてしまいました。
完治したわけではなく後遺症が残り、歩くのもかなり困難な状況になってしまったのです。
かつては外出が好きだった祖父の姿はすっかり見えなくなり、
あの事故以来、祖父は家にこもり、会話することも減り、
食欲も減退し、体力も減っていくようになったのです。
家でテレビを見ながらぼーっと過ごす毎日が続きました。
車椅子の座り心地を気に入った祖父
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これを見てさすがによくないと思ったわたしの父は、
自分の兄弟たちと話し合い、何とかして祖父の元気を取り戻し、
前のような活気ある生活が回復させようとしていろいろな策を練っていました。
そこで考え付いたのが、車椅子あるいはシニアカーなど、
歩行が難しくなった祖父でも使えるツールを試してみるということでした。
最初はシニアカーを検討しました。
とりわけ祖父はそれまでバイクに乗っていましたので、
シニアカーも比較的安全に乗りこなせるのではないかと考えたのです。
ところが祖父はシニアカーを使用するのに大変な難色を示し、
「そんな機械には乗らない、恰好が悪い」と言っては皆の提案を拒んでいました。
やはり祖父に勧めるのは難しいと半ばあきらめていた頃のことでした。
祖父がしばらく前から通っていたデイサービスにおいて、
ある日花見があり、歩行距離が長いという理由で祖父は
車椅子に乗って移動することになったのです。
車椅子に乗ったのが初めてというわけではなかったと思うのですが、
祖父はえらく車椅子の座り心地を気に入り、とても上機嫌でした。
車椅子で外出するように
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その後しばらくは同じ車椅子をデイサービスから貸与していただき、
日常生活の中で、自宅でもその車椅子を使用することにしました。
祖父はまんざらでもない様子で、その車椅子を自分で器用に駆動させ、
室内でも、そして庭先も上手に移動できるようになりました。
もちろん人から押してもらうのも内心うれしがっている様子でした。
それを機に、祖父は少しずつ外に出るようになりました。
以前のような激しい運動や回数の多い外出は難しくても、
自分のできるペースで、自分から天気のいい日は外に出るようになりました。
元気が出た姿を祖母はもちろんのことわたしの父たち兄弟も、
そして孫であるわたしたちもとても喜んで見ていました。
今思うと、別にシニアカーでもよかったのだと思います。
ただ頑固で保守的な祖父は、自分が実際に使って
「これは良い」と思った物でない限り使用したくはないと思ったのでしょう。
だからこそ実際に乗ってみた体感を通して車椅子が良いと感じたのだと思います。
88歳で亡くなる少し前まで、祖父は車椅子を自力で動かして移動をしていました。
コンパクト車椅子だったため室内での移動もわりと
不自由が生じることなくできていたのだと思います。
車椅子は単に物理的な不都合を取り除くだけでなく、本人の考え方を変え、
希望を与え、明るい気持ちにさせてくれるものでも
あるということを、わたしは祖父を見て感じたのでした。